ニュース

news

-連載3- トレーナーを目指す君たちへ

第3回 アスレティックトレーナー(AT) の役割 その2

 
どれだけコンディショニングに力を注いできても、スポーツ現場で傷害が発生するリスクは存在します。幸いなことに深刻な傷害は滅多に起こるものではありません。その場で適切に応急手当すれば問題ないケースがほとんどです。もちろん中には病院での診察を必要とするものもあれば、救急車を呼ぶこともあります。軽いケガから命に関わるような状況まで AT は最善の処置ができなければならないのです。万が一アスリートが心肺停止状態といった最悪の事態に陥ったとしても、冷静に救急車や AED を手配した上で心肺蘇生を実施できなければならないのです。
 
傷害発生時に適切な対応をするためには、まず何が起こったのかをできるだけ正確に把握しなければなりません。前回触れたメディカルチェックの迅速版です。このスポーツ現場での評価は on – field の評価と off – filed の評価に分けて考えることがあります。例えばラグビーの試合中にプレイヤーの誰かが負傷して倒れると、腰にバッグをつけた人が駆け寄ってきます。試合が進行中でも試合をサポートしているトレーナー(セーフティアシスタント講習会を受講しておく必要があります)はフィールド内に立ち入ることができるのです。そこで行われるのが on – field の評価で、チームドクターやマッチドクター(スポーツの試合などで医学的な問題が発生したときに対応する医師)との協力のもと、安全に試合を継続できるのかどうかを判断します。継続できるようであればその場でできる簡単なテーピングなどの処置をしてプレーに戻します。プレーが継続できないと判断された場合はフィールド外に出し、より詳しく状態を判断する off – filed の評価をすることになります。もちろん安全に搬送できる状態かどうか、また安全に搬送するための方法(担架やバックボードの使用など)も判断しなければなりません。
発生率としては極めて低い数字にはなりますが、仮にここで頭頸部(とうけいぶ)外傷による心肺停止状態などが発生したとしたら、胸骨圧迫と人工呼吸、そして AED を使用する心肺蘇生を冷静に実行することが求められます。形は違えど、各スポーツで選手の負傷時にトレーナー達が現れます。これからスポーツ観戦中には注意して見てくださいね。
さてその評価方法ですが、HOPS と呼ばれる流れで理解するとわかりやすくまとまります。
 
H・・・問診/聴取
O・・・視診/観察
P・・・触診/触察
S・・・Stress&Special Test/ストレス&スペシャルテスト

 

どんな傷害が発生したのかという確定診断はドクターにしかできません。ですからトレーナーはその場で最適な対応をするための評価をするという表現になります。まず、どんなことが起こったのかを尋ねます(History 聴取、問診)。どんな風に受傷したのか、弾けるような音が聞こえたか、どこがどの程度痛むのか、どんな種類の痛みなのか、今まで同じような怪我をしたことがあるのかなど、様々な情報を確認します。慢性の傷害を見る時には、症状を感じ始めた時期、その後の経過、練習量や練習内容など、より多くの情報を得る必要があります。
患部をできるだけ露出させて、変形や変色、腫れや出血がないかなど、目に見えるものを確かめます(Observation 観察、指針)。メディカルチェックで行うように姿勢やアライメントの確認も行います。
患部に遠いところから患部に近づくように触り、見ただけではわからなかった変形や熱感、筋肉の緊張度や、触った時の痛みなどを確認します(Palpation 触察、触診)。
関節を動かして可動域(ROM 関節可動域)を確認したり、どれくらい筋力を発揮できるのか手を使って確認(MMT 徒手筋力検査)します(Stress Test ストレステスト)。また関節安定性を確認したり、傷害を再現するようなテストで、より正確に状態を把握します(Special Test スペシャルテスト)。
これらを手早く確実に行うことでトレーナーは状況をより正確に把握し、最善の対応をすることができるのです。
では、最後によく行われる応急処置の方法を紹介しておきましょう。RICE 処置です。もうご存知のみなさんも多いかと思います。高校野球を見ていても投げ終わった後のピッチャーが肩や肘に何か巻いていますよね。あれも微細な損傷の応急手当と考えることができます。
 
 
R・・・Rest/安静
I・・・Icing/冷却
C・・・Compression/圧迫
E・・・Elevation/挙上
その名の通りですが、氷を入れた氷嚢(ひょうのう)やビニール袋を、バンテージ(伸縮包帯)で軽く圧迫するように巻いて固定し、心臓より高くして安静にしておくというものです。場所によっては最初の数分は痛く感じることがあるかもしれませんが、アレルギー症状などがない限り15〜20分間そのままにしておきます。負傷時には患部に炎症反応が起こりますが、これを抑える目的があります。炎症反応は体が負傷した部位を修復するために必要な反応なので、RICE 処置に否定的なトレーナーの方もいらっしゃいます。しかし、この炎症反応が広がりすぎたり長引いたりすると治癒時間に影響が出るので、最小限度にコントロールするために行った方がいいかと思います。ただし、この処置が逆効果になる傷害があることもトレーナーは知っておく必要があります。必要に応じて副子(ふくし。固定するときに用いられる装具)や三角巾などで保護する場合もあります。
傷害発生時の適切な評価と応急手当は、アスリートの安全を守り、傷害からの復帰を助けます。知識を増やしそれを現場につなげる勉強、そしてそれを実践する現場での経験の積み重ねが、アスリートを守る力になるのです。さて次回は、ケガを克服するための取り組みについてお話しします。
 
連載2―へリンク
誰かの役に立ちたい!大好きなスポーツの世界で!! 鍼灸スポーツ学科    山根 太治

オープンキャンパス・資料請求はこちら