女性の臨床工学技士の将来性は?働き方やキャリアの積み方について
目次
臨床工学技士とは、病院やクリニックをはじめ、医療機器メーカーなどで活躍する医療技術者(メディカルスタッフ)の職種の一つです。とくに医療現場では、生命維持管理装置などを操作するため、患者さんの命に関わる重要な役割を担います。
また臨床工学技士は病院のエンジニアとして、さまざまな医療機器の安全管理のため保守や点検を行います。そうした仕事内容から男性の臨床工学技士が多いイメージを持たれがちですが、女性にとって将来性はある職種なのでしょうか。ここでは、女性が臨床工学技士になった場合の働き方や長く活躍できる方法について解説します。
臨床工学技士の仕事内容
病院などの医療現場で、医療機器を扱う仕事は様々ありますが、患者の命を支える生命維持管理装置に精通しているのが臨床工学技士です。臨床工学技士は、主に次のような業務を行います。
血液浄化業務
血液浄化業務は主に透析治療を行います。透析装置の準備や操作、患者の体調のモニタリング、透析液の調整などが含まれます。
血液透析
血液浄化療法のうち、もっとも知られている治療法が血液透析です。臨床工学技士は、血液透析センターで医師や看護師と協力し、治療の安全な実施をサポートします。治療が開始される際は、臨床工学技士も医師や看護師と同じように、患者のシャントへの針を刺す作業や透析条件の設定、機器の操作などを行います。また、血液浄化療法には専用の機器や装置が使われますが、臨床工学技士はその操作や保守点検を担当します。
血漿交換
血漿交換は、血液を血球成分と血漿成分に分ける治療法です。血液を分離したあと、病気の原因となる物質を含む血漿を取り除き、同じ量の健康な血漿(新鮮凍結血漿)で置き換えます。
吸着療法
吸着療法では、吸着材を入れた吸着筒に血液を流すことで、血中の病因物質を吸着除去します。たとえば、敗血症などに対するエンドトキシン吸着や、潰瘍性大腸炎の治療で用いられる顆粒球吸着療法といった直接血液吸着が行われます。
心血管カテーテル業務
心臓カテーテル業務では、冠動脈造影や血管治療などの手順で生体情報を監視します。臨床工学技士は、心臓カテーテル室で高度な医療機器を操作する専門家です。工学的な知識を活かし、造影検査や血管内治療、不整脈治療などさまざまな検査や治療に携わり、医療現場で重要な役割を果たしています。
手術室業務
手術室では、人工心肺装置や麻酔器、電気メスなどのさまざまな医療機器が使用されます。臨床工学技士は、これらの機器の準備や点検を行い、手術中には正常に動作しているかを監視します。トラブルが起きた場合には迅速に対応して、手術を安全かつスムーズに進行させるサポートをします。
集中治療室業務
集中治療室(ICU)は常に稼働し、急性の病気や手術後の患者が入院しています。患者の状態が安定せず、生命維持装置が必要なこともあります。臨床工学技士は24時間体制で常駐し、機器の操作や保守点検を行います。
臨床工学技士の一日の業務
臨床工学技士は、病院や診療科により仕事の流れも異なります。たとえば、ある病院における血液浄化センターでは、次のようなスケジュールで一日の業務を行います。
8:00~ 1クール目準備(機械室始業点検、浸透圧・電解質測定、プライミング、ガスパージ、抗凝固剤接続、回路最終チェック)
8:40~ 透析開始(患者入室、治療開始)
10:00~12:00 透析中(1時間ごと定時チェック、2クール目準備、入院透析患者さん対応)
13:00 透析終了(返血、回路片付け、機械清拭、患者退室)
13:30~ 2クール目準備(回路取り付け、ガスパージ、抗凝固剤接続、回路最終チェック)
14:00~ 透析開始
15:00~17:00 透析中(次の日の準備、ダイアライザ出しなど)
18:00 透析終了(機械室終業点検)
19:00 業務終了
なお、午前8:00~16:30は日勤、10:30~19:00は遅番となります。
女性の臨床工学技士の将来性
臨床工学技士の仕事内容や業務の流れを確認しました。臨床工学技士は、患者さんの命に直結する現場で医療機器の操作や保守、点検を担う現代医療において欠かせない存在です。そのように重要な職種ですが、女性にとって将来性はあるのでしょうか。
臨床工学技士の男女比
公益社団法人日本臨床工学技士会による2018年のデータでは、正会員は男女比7:3で男性が多く、20歳~30歳代が約7割を占めていました。大手求人会社による2022年のデータでは、臨床工学技士の男女比は3:1程度になっており、まだ男性技士の割合が多い傾向にあります。
女性の臨床工学技士が増えている
最近になって、ドラマや映画で臨床工学技士の役割がクローズアップされたため職種として広く知られるようになりました。さらに価値観の多様化や職域の拡大が進んで、女性の臨床工学技士も増えています。患者さんによっては女性技士による対応を求めるケースがあるため、医療機関も女性が働きやすい待遇や制度を整える傾向にあります。
収入面ではどのような違いがあるか、医療職種別に男女の平均年収を比較してみましょう。
臨床工学技士の平均年収
臨床工学技士の平均年収は、男女を合わせて約300万円から450万円です。一方、女性の平均年収は、約330万円から416万円であるため、性別による差はそれほど大きくありません。
理学療法士や作業療法士をはじめ、言語聴覚士や視能訓練士などの職種では、男女合わせて平均年収は約419万円で、女性は約397万円です。臨床工学技士の年収には、担当業務や経験年数などの個人差があるため、参考程度に捉えてください。
女性が臨床工学技士として働くメリット・デメリット
男性の割合が多い臨床工学技士ですが、女性の臨床工学技士ならではのメリットもあります。そうした面で希望が持てる一方、デメリットについても知っておきましょう。
女性が臨床工学技士として働くメリット
男性技士よりも女性技士のほうが、物腰が柔らかいイメージがあり、相手の心情に寄り添った対応に向いています。そのため、治療の際に患者さんが安心しやすいようです。たとえば、透析治療の場合、患者さんにとって生活ががらりと変わってしまうため不安に感じることが少なくありません。女性技士から説明や指導を受けるほうが、安心できるという透析患者さんが一定数いらっしゃいます。
また、女性技士の特徴として、男性技士よりも産婦人科で活躍しやすいことがあります。妊娠されている患者さんに寄り添い、赤ちゃんの誕生に関わることは大きなやり甲斐を感じます。小児科でも子どもが懐きやすいことから、女性技士が活躍する場面がみられます。さまざまな現場で役立てることは、女性が臨床工学技士として働くメリットといえるでしょう。
女性が臨床工学技士として働くデメリット
病院や診療科によりますが、臨床工学技士は夜間の緊急対応に備えてオンコール体制をとることがあります。プライベートにおける休日の行動が制限されるため、とくに子育て世代の女性にとってはデメリットになります。また、シフト制や残業が多いケースも考えられます。
臨床工学技士は結婚・出産後も仕事を続けられる?
女性が臨床工学技士として働くデメリットにも関係してきますが、結婚・出産後は仕事を継続できるのでしょうか。
医療現場では、臨床工学技士の業務において女性ならではの細やかさが求められる傾向にあります。最近では男性技士だけの職場より、男性技士・女性技士のバランスがとれているほうがそれぞれの長所を活かせることから、女性技士の需要が高まっています。
女性技士を積極的に採用する医療機関が増えており、女性にとって働きやすい環境が整備されてきました。
産休・育休を取得しやすいように、子育て支援制度の充実を図る傾向にあります。保育施設を備え、時短勤務に対応するなど、仕事と家庭との両立に理解を示す職場が少なくありません。いずれは女性が臨床工学技士として働きながら、結婚や出産、子育てを続けられる環境が当然のこととなるでしょう。
医療の知識や技術は絶えず進化しているため、臨床工学技士としてのキャリアを継続するためには、最新の知識と技術を身につけることが必要です。
臨床工学技士として就職・転職する選択肢
女性が臨床工学技士として長く活躍するには、就職や転職の場面でより適切な職場を選ぶ方法があります。
透析クリニックはシフト制の勤務形態をとる職場が多く、夜間に透析業務を行わない限り夜勤が発生しません。日中勤務のみならば、残業も少なめです。結婚や出産、子育てのことを考えると、保育園の送り迎えに対応しやすくて生活時間も安定することから、仕事と生活を両立しやすい傾向にあります。託児施設が併設されている医療機関で働くことも、選択肢の一つになるでしょう。
まとめ
今回は、女性の臨床工学技士の将来性や働き方について解説しました。昨今は、臨床工学技士においても男女共同参画を目指しているため、これからますます女性技士の比率が高まるでしょう。日々の研さんを積みながら希望に合う職場を見つけて、長く活躍できるフィールドを目指していきましょう。