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-連載4- トレーナーを目指す君たちへ

第4回 AT の役割 その3 アスレティックリハビリテーション

 
スポーツでケガをした時、不安になったことはありませんでしたか? チャンスを失ったり、レギュラーを外されるかもしれないといった心配も、もちろんありますよね。でも、自分の身体になにが起こったのか、どうすればより早くいい状態にもどせるのか、知りたくありませんでしたか?
ケガをしてしまったアスリートに対する AT (アスレティックトレーナー)の役割は、一緒にそのケガを克服していくことです。問題を克服して競技に復帰するその道のりを、アスレティックリハビリテーションといいます。ここではアスリハと省略して呼びます。ケガが回復していく過程で、体力が日常生活レベルまでもどっても、競技復帰するにはまだ足りません。また、ケガをした箇所が回復するだけでも十分ではありません。練習に参加できるだけの全身持久力、全身の柔軟性、筋力や調整能力、また身体の使い方や動作のフォームなど、身体全体の問題点を解決し、ケガをする前よりいい状態になってこそ、理想的な復帰の準備が整ったとアスリハでは考えるのです。
 
アスリートがケガをしてドクターの診断を受けた後、その指示に従って AT(アスレティックトレーナー) はアスリハのプログラムをデザインします。AT はまず現状を把握するために、自分でも評価を行います。ケガに直接関わる問題点や、その他の問題点を洗い出し、それらを改善するプログラムを作るのです。過去のケガの情報(既往歴 きおうれき)も重要です。試合などのスケジュールも確認し、当然意識することになりますが、いたずらに振り回されてはいけません。可能な限り早い復帰を目指しますが、安全性を無視してはならないのです。
 
はじめは痛みや腫れを改善すること、動く範囲(関節可動域 ROM)を広げることが主な目的となります。筋肉がやせてしまったり、筋力が低下しないよう、無理なく行える筋力トレーニングも行います。はじめはかなり地味なトレーニングになりますが、これが次につながることを具体的に意識できるよう、アスリートに伝えながらアスリハは進みます。ケガが悪化しない範囲で、その他の部位のトレーニングや全身持久力のトレーニングも行います。下半身のケガであれば、体幹や上半身のウエイトトレーニングはできますし、プールで上半身だけを使って泳ぐなどの方法で体力維持ができます。
 
課題をひとつひとつ克服しながら、トレーニングの負荷を段階的に増やします。足首やヒザなど下半身のケガであれば、まずは自分の体重を支えられることを目標とし、両足で立てれば片足立ちへ、片足荷重ができれば歩行に進みます。さらに筋力や調整力がついてくればジョギングを始めます。安全にペースを上げ、徐々に全力疾走へと近づけます。まっすぐ走ることができれば、次はステップ動作やジャンプなど基礎的なスポーツ動作に取り組みます。競技によっては、投げたり、あたったり、スパイクしたり、タックルしたり、様々な特殊動作が要求されます。これら競技特性により求められる動きを効率的に行えるようトレーニングを積み重ねます。ケガが起こった直接的原因(発生機序)は初期のアスリハでは避けるべきリスクになりますが、この頃になると克服すべき動きとして改善されているべきです。全身持久力トレーニングも実際の練習に近いことができるはずです。スポーツ現場では、復帰直前のトレーニングを S&C (第1回参照)が担うこともあります。
 
ケガによって、この期間が数日のものもあれば1年近くかかるものもあります。まれにそれ以上の期間が必要になることもありますが、AT (アスレティックトレーナー)はアスリートとともに寄り添って歩みます。その中で、ケガと向き合うための心理的なサポートが必要なこともあります。栄養のアドバイスも必要になりますし、治療を効果的に組み合わせたいとも考えるでしょう。AT(アスレティックトレーナー) は、自らもそれらの専門知識を持ちながら、アスリートのために様々な専門家との協力体制を築いておく必要があります。
 
競技復帰したからといって、アスレティックリハビリが完全に終了した訳ではありません。同じケガを繰り返さないためにも、再発予防トレーニングを継続するよう指導したり、必要に応じてテーピングなどでサポートします。ともに歩んできたアスリートが、AT (アスレティックトレーナー)の手を離れ活躍する姿を眼にした時、素晴らしい達成感を感じることでしょう。
 
さて、AT(アスレティックトレーナー) の役割を数回に分けて紹介しました。もちろんこれが全てではありません。ただ、これらの役割を果たすために身につけておくべきことがイメージしやすくなったのなら幸いです。人の身体の造りを学ぶ解剖学。機能を学ぶ生理学。これら基礎医学を土台に、様々な専門知識、スキルを習得する必要があります。決して楽な道のりではありませんが、全ての苦労は、将来出会うアスリートを全力でサポートするための準備なのです。
 
ところで、AT は日本スポーツ協会が認定するスポーツ指導者資格のひとつであり、治療をすることはできません。しかし治療ができれば仕事がやりやすくなる側面があります。私の場合はアメリカでトレーナーの基礎を学び資格を取得し、帰国後改めて AT を取得しました。ただトレーナーを目指した時から日本の現場で働くことを意識していたので、渡米前に鍼灸師資格を取得しました。私の場合は現場で働く上で、それは非常に有効でした。医療資格を持たずに活躍するトレーナーの方もたくさんいらっしゃいますが、より広く深い医療知識、現場で使える治療技術をもった AT はやはり魅力的な存在だと個人的には感じます。
 
次回は AT に求められる資質について考えてみましょう。
 
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