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アスレティックトレーナー(JSPO-AT)として必要なスキルを実技試験から読み解く!~part6~

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ひとつひとつの動作について詳細に述べるとキリがありませんから、いくつか例を上げながら考え方を見ていきましょう。まずは走るという、どの競技でも共通して必要になる動作を考えます。体幹から下の傷害(足関節捻挫、膝の靭帯損傷、ハムストリングスの肉離れや腰痛など)を負ったアスリートが通常歩行ができるようになったという状態からスタートしてみましょう。

まず歩く動作と走る動作の違いはなんでしょう。歩行動作は足のどこかが必ず地面についていますが、両脚が浮く局面が現れた時に走り出したということになります。ですから歩くよりも遅いスピードで走ることも可能です。ただ、どこかで支えながら足を運ぶことから一度浮いて着地することに進むと、より大きな筋力や協調性が必要になります。それに耐えられる準備をするために今まで行ってきた片脚でのトレーニングの負荷を考えましょう。前回の段階的な評価法の順番と同じく、スクワットから前後に足を開くスプリットスクワットに移行して前足荷重を大きくし、そのまま前足の片足スクワットを行い、次に一歩前に踏み出して着地動作が入るランジに進むというようにエクササイズを段階的に進めるのですが、スプリットスクワット時や片足スクワット時にバランスディスクを入れたり、チューブで崩れやすい方に引いたり、ダンベルなどの重りを持ったりして外乱を加えるようなアイディアをカードに加えておくのです。もちろんいきなりはリスクがありますから、まずは外乱のない状態から段階的に負荷を高めます。外乱の質もゆっくりとした刺激から徐々に速い刺激に変えるとか、規則性のあるものから不規則にするなど変化させます。また、継続時間や回数もどんどん多くして筋持久力や協調性持久力も高めます。

こうして負荷の量や種類を増やす中で、片脚で小さなホッピングを繰り返すことができればジョギングをスタートします。ジョギングでも歩幅やペースは変化がつけられますから、これも段階的に負荷を高めます。グラウンドやコートでラインが引いてあるところでトレーニングできるのであれば、この区間は30%、次の区間は50%、ここはストライドを大きく、次はペースを落としてなど、ライン間で負荷に変化をつけるデザインがあってもいいでしょう。ステーション制にして、途中でスクワットやプッシュアップなどの筋トレ、またパスなど可能な形でのスキルトレーニングを入れてサーキットトレーニング形式にすれば、より有意な時間にできるでしょう。この考え方は、歩くという動作が可能な時期から取り入れられますし、もっと初期のリハビリでも有効です。心拍数を一定以上でキープするようなサーキット形式にする方法も考えておくといいでしょう。

ではジョギングともっとペースの速いスプリントとの違いをどう埋めていきましょう。全力疾走ではジョギングと比べて、可動域も大きく、筋出力や収縮速度も全く違います。身体をコントロールする協調性もより複雑になります。可動域については、初期リハの時点で改善されていることが前提ですから、そのほかの要素を見ていきましょう。この段階になるとウエイトトレーニングでも比較的大きな負荷をかけられるようになっていますので、下肢の筋力トレーニングでも筋力をより大きくする取り組みはできるはずです。特にハムストリングスが強いエキセントリック収縮(筋が引き延ばされながら収縮する筋張力が最も大きくなる様式)に耐えうる状態にしていくことは重要です。ただ、重い重量を使ってより大きな筋力を発揮できるだけでなく、実際の動作スピードで動かせるように、動作速度で負荷を設定する必要があります。スタート時に反動を使ってでも早く強い収縮をするトレーニングが必要なのです。実技テストでは大きな重量のダンベルやバーベルが用意されていません。それでも自重で様々な負荷をかけるトレーニングが可能ですから、そのカードもたくさん作っておきましょう。

ここでパワーという概念を確認しておきましょう。「パワー」という言葉は単純に「力」と同義で使われることも多いかもしれませんが、トレーニングの世界では少し違います。パワーは力と速度の席で求められます。つまり、力が小さくても筋収縮速度ひいては動作の速度が大きいと、大きなパワーを発揮できます。この式を少し変化させていきます。

パワー=力 × 速度
=力 × 距離 / 時間
=仕事/ 時間
=仕事率

仕事率とは、大きな仕事を短い時間でするほど大きくなる数値です。実際のスポーツ動作では、ここが求められることが多いでしょう。ハムストリングスの筋力発揮を実戦的なものにするためには、土台となる筋量や筋力をつけた後、それを短い時間の中で発揮するパワートレーニングに移行する必要があるのです。ステップアップスなどを素早い動きで行いジャンプ系トレーニングに移行しましょう。いわゆるプライオメトリックトレーニングの指導ができるようにしておけば、ジャンプ動作を獲得するための問題にも応用できます。

動作指導として、陸上短距離選手が行うような基礎トレーニング、スピードトレーニングのパターンを習得しておく必要もあります。前方への足の振り出しが大きすぎるような場合や、右脚と左脚の切り返しがずれている場合などは、動作の中でより低リスクかつ高効率な動きを求める必要がありますから、この指導はATとしては外せないスキルになります。もちろんS&Cスタッフが身近にいる環境であればその協力を得て行うことも可能ですが、基本的な動きは指導練習を積んでおきましょう。実技試験では動けるスペースが限られている場合も多いので、狭い場所で行うドリルも作っておきます。ラダートレーニング系の動きのパターンを持っておけば便利です。このようなカードをたくさん持っておくとウォーミングアップやクーリングダウンを担当するときにも使えます。

段階的に走るペースを上げるときにも、いきなり速いスタートは負荷が大きいので、ゆっくりスタートして途中スピードを上げ、ゆっくりと減速するような緩急走をうまく使って、最大スピードを上げます。前述のトレーニングにより地面を蹴る力が十分に強くなれば、スタート動作も組み込みます。ストップ動作もだんだん減速する範囲を短くし、歩数を減らし、最終的に一歩でストップする動作を習得すれば、素速い方向転換動作に活かせることになります。この考え方は、狭いスペースで行うときにもピッチ(足の回転数、歩/秒)を同様に調整することで負荷をコントロールします。

ハムストリングスの肉離れは「クセになる」と言われることもありますが、ATとしてこれは禁句です。再発しないようにその人の問題点を克服するようなプログラムを組み、トレーニング指導できるようセンスを磨きましょう。

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