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アスレティックトレーナー(JSPO-AT)として必要なスキルを実技試験から読み解く!~part4~

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アスレティックトレーナーの試験のカテゴリーが以前は、初期リハビリテーション(初期リハ)後期リハビリテーション(後期リハ)に分かれていた時期もあり、今も大きくそのふたつの分類の設問から出題されています。まずは初期リハから考えていきましょう。

負傷後まもなく、ROM(関節可動域)制限や筋力低下が見られる状況で、それらの改善を中心に、協調性要素を加味するような内容になります。実際の現場では患部外トレーニングや可能な形での全身持久力トレーニングなども含めて実施することになりますが、試験では患部中心のメニューになるので、まず身体部位別にまとめてみるといいかと思います。ただし前回で述べたような様々な状況に対応するためには、傷害に応じて11分間のパターンをひとつだけ作るより、ひとつのメニューを1枚のカードに見立ててそのカードを増やす感覚で持ちネタをたくさん作った方がいいかと思います。そして目の前の人に必要なカードを評価を通じて選択し、効率的に並べてプログラムにするのです。同じ目的の運動でも、段階的に負荷を設定するとカードはみるみる増えていくかと思います。

以下、基礎的な解剖学の知識が必要になりますが、筋に焦点を当てて考え方の例をあげてみましょう。例えば腕を横から上まで上げる動き(上肢の側方挙上)に痛みを伴う制限があるとします。この痛みがどこにあるかということは評価の時点で把握しているはずですが、ここではなぜその痛みが生じるのかを改めて考えないといけません。上肢の側方挙上は肩関節(肩甲上腕関節)の外転や肩甲骨の上方回旋の複合動作ですから、そこに注目してみます(図1参照)。肩関節の外転をする筋には棘上筋三角筋があります。棘上筋の方に機能低下が見られることが多いので、棘上筋のテストをして筋力低下が確認できれば、その筋力を改善することが現状を改善するためのひとつの方法になります。自重やチューブ、また軽めのダンベルなどを使った筋力強化メニューを軽い負荷のものから段階的に考えておきます。動きを起こす筋だけでなく、肩関節内転というその反対の動きをする筋(拮抗筋)である大胸筋や広背筋などの柔軟性低下も原因になり得ます。それらの筋については柔軟性改善のためのストレッチ方法を考えておきます。

しかし初期リハの段階ではこれらの動きに痛みを伴うかもしれません。腕をスムーズに上げるためには、肩甲骨の上方回旋という動き(図1参照)が必要になりますので、こちらにアプローチすることも考えます。肩甲骨を上方回旋させる筋には、僧帽筋や前鋸筋があります。それに拮抗する筋には肩甲鋸筋や大・小菱形筋、広背筋などがあります。これらの筋の筋力強化運動や柔軟性改善ストレッチの方法を考えておきます。腕を上げずに行えるもの(肩関節の外転を伴わないもの)を考えておけば、初期から痛みのない範囲でのトレーニングが可能になります。図2の赤い矢印は腕を横から上げるために働く筋を示し、青い矢印は反対の動きをする筋を示しています。

このような局所的な考え方のみならず、この痛みが投球動作で起こったものであれば、もう少し視野を広げる必要があります。ワインドアップ時に猫背になっていたり、逆にそりかえるような姿勢になっていたり、片脚で安定して体を支えられていなかったりするなら間接的に腕を上げる動作に制限をかける可能性があります。そこから前に足を踏み出した時にも、身体が開いていたり、重心が早く前に移動したりするなら同様の影響が考えられます。つまり原因がわかっていれば、肩を動かさなくてもその状態を改善する取り組みはできるのです。そしてこれらはボールを投げるために腕を強く振らなくても、あるいは全く動かさなくても確認することはできます。最終的に投球動作という一連の動作として改善させるにせよ、初期リハではまず個別対応しておきます。先に必要な種を蒔いておいて動作時に花を咲かせるためです。

こう考えると、人によって初期かプログラムの組み立ては多様化すると思います。だからこそその人に最も適切なカードを選び適切に並べるのです。そして一見地味な関節可動域トレーニングや筋力トレーニングでも、目的が明確でなければいけないことがわかります。なぜそのトレーニングをするのか、そのことで今またはこの先にどんな効果が見込めるのか、どんな意識で行うべきなのか、初期リハの段階からその目的をアスリートに伝え理解を求め、その意識で実施してもらうことが大切なのです。

試験対策としては、まず各部位ごとの可動域改善運動、筋力運動に関する持ちネタをできる限り増やしていきましょう。そして評価の結果をもとに適切なものを選び出す感覚を磨きましょう。次回は協調性について考えます。

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