トレーナーを目指す君たちへ①
はじめまして。私は 大阪ハイテクノロジー専門学校でアスレティックトレーナー教育に携わっている 山根 太治(やまね たいじ)といいます。 鍼灸スポーツ学科、柔道整復スポーツ学科、スポーツ科学科のスポーツ系3学科で授業を持っています。教職に就く前はラグビーの世界でトレーナーとして働いてきました。高校や社会人のトップチーム、そして国体チームや高校日本代表チームなど、様々なレベルでラグビー選手をサポートさせてもらいました。2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップ(RWC2019)では、花園ラグビー場で行われた全試合でマッチオフィシャル(レフリー)のサポートをさせてもらいました。今はスポーツ現場には出ていませんが、自分が携わった卒業生が様々な形で活躍することを楽しみに、その育成に力を注いでいます。しかしずいぶん前、今から三十数年前には、君たちと同じくトレーナーというものを手探りながら追いかけ始めた時期があったのです。
「トップスポーツの現場で働きたい!」、「いろんなレベルのスポーツ選手をサポートしたい!」、「自分がケガで苦しんできたので、そんな思いをする人を減らしたい!」、「とにかくスポーツに関わる仕事がしたい!」。君たちが「スポーツトレーナー」という職業を意識し始めた理由はひとりひとり違うでしょう。私にも私の理由がありました。幼稚ながらその頃に考えていたことがあったのです。そして実際にこの道を選び歩んでくる途中で、感動に震えたことがありました。懸命に取り組んできたことがありました。もちろんいろいろ悩んだり落ち込んだりしたこともたくさんありました。そんな様々な出来事を思い出しながら、いま自分の将来像のひとつとしてトレーナーというものを考えている君たちの、何かお手伝いがしたいという想いを、数回に分けてここに書き綴りたいと考えています。
~第1回 トレーナーの定義~
トレーナーってどんな存在なんでしょうか。アスリート(スポーツ選手)をサポートする仕事ということはなんとなくわかっていても、君たちの中にはまだはっきりとした仕事がイメージできないという人がいるかもしれません。トレーナーとは、もともと調教師や訓練指導者を指す言葉でした。犬の調教師もドッグトレーナーと呼ばれるし、怪しげな自己啓発の指導者をトレーナーと呼んだこともありました。スポーツの世界で使われるトレーナーという言葉も、トレーニングを指導する人を指して使うこともあれば、ケガの処置をしてくれる人を指して使うこともあります。連載第1回目の本稿では、ここで扱うトレーナーという専門家の定義を考えてみましょう。
今や様々な種目のトップスポーツの世界で、トレーナーは不可欠な存在になっています。ラグビーを例にとると、トップチームには「S&C」と「メディカル」という形でトレーナーが存在します。S&C とは「ストレングス&コンディショニング」(Strength & Conditioning)の略です。ウエイトトレーニングを始めとするパフォーマンス向上のための様々なトレーニングを企画立案し指導する専門家をこう呼びます。一方、メディカルというのは、スポーツ傷害の予防や処置など、より医学的な立場でアスリートをサポートする専門家のことです。ここではメディカルの立場でのトレーナーにスポットを当てることになります。ただ、メディカルと S&C を兼任する方も少なくありませんので、折に触れ S&C に関する話も登場します。
メディカルの役割を担うトレーナーの正式名称は「アスレティックトレーナー」といいます。国内では日本スポーツ協会(JSPO)が公認するアスレティックトレーナー資格が唯一の公的資格と言っていいでしょう。この資格は日スポ協 AT、JSPO-AT、また単純に AT と呼ばれます。以降、略称としては AT をここでは使います。AT は日本スポーツ協会が設定しているスポーツ指導者資格のひとつです。トップチームだけでなく病院や地域のクラブチームなどで、トップアスリートから一般のスポーツ愛好家までを対象に、医科学の知識をもとに健康管理や競技能力向上を援助する存在とされています。その業務は 「スポーツドクター及びコーチとの緊密な協力のもとに、アスリートの健康管理と組織運営、スポーツ外傷・障害の予防、コンディショニング、スポーツ外傷の救急処置、アスレティックリハビリテーション、検査・測定と評価、教育的指導にあたること」 と定義されています。今、協会では AT のあり方、また教育カリキュラムの改訂を進めています。近々、新しいものになる予定ですが、現在、定義されている役割は以下の通りです。
これらの業務はそれぞれ独立したものではなく、密接に連動しています。次回は、これらの仕事をもう少し具体的にみていくことにします。
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